これまでボディメイクについての投稿を多くさせていただきましたので、今回はケガ、特に「椎間板ヘルニア」についてお話をしたいと思います。ただし、皆様ご存知のように私は医師ではないので不確定な情報の蔓延を防ぐため、医学的根拠のない事柄には言及しません。あくまで柔道整復師、鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師の立場で書いていきます。
へルニアとは?
「ヘルニア」という言葉を聞いた経験がない方はおそらくいないはずです。ヘルニアは日本語で平たく言うと「飛び出す」を意味し、本来あるべき場所から何かが出てしまったときに用いる医学用語です。
ヘルニアの名が付いた有名な疾患名・傷病名は、腰に起きる「腰椎椎間板ヘルニア」、首に起こる「頚椎椎間板ヘルニア」、股関節の前側で起こる「鼠径ヘルニア」でしょう。私は、スポーツ医学に関わる仕事をしていたので、圧倒的に出会う機会が多かったのは腰と首のヘルニアです。
腰に関しては首よりも発症率が高い現状もあり、ネット上に記事が多く容易に調べられるので、今回はあえて首のヘルニアについて経時的なMRIの画像所見をもとにまとめていきます。
症状とX線画像
頚椎椎間板ヘルニアは、首の骨の5番目と6番目の間に起こるケースが多く、その際の初期症状として、筋肉痛のような首の痛み、肩や腕の外側のズキズキとした痛み、同部位の持続的な痙攣(線維束性収縮)、そして重症度によっては1~3日程度すると腕を上げる力や物を握る力が弱くなる場合もあります。
これは右側の頚椎椎間板ヘルニア症(首の骨の5/6間)の受傷3日後に撮影されたレントゲン写真。立位での撮影ですが、目立つのは右に首を傾けている(右頸部筋の過緊張)のと、枠内のストレートネック(神経根インピンジメントによる逃避姿勢)です。
MRI画像
次の画像は受傷1週間後のMRI(T2強調像)で、仰向けでの撮影です。MRIは骨以外の組織も撮影できるのでヘルニアのある場所がはっきりとわかります。
左の写真は、脳から伸びている脊髄を飛び出した椎間板が圧迫している様子、右の写真は、C6と呼ばれる神経根を圧迫している様子です。握力に関係する筋肉の支配神経はC6ですので、首の骨の5/6間ヘルニアでは握力低下が起こる場合があるわけです。
ところで、医療の知識をお持ちの皆様なら「握力なら前腕屈筋群や手内筋を支配しているC7やC8なのでは?」とお考えになるかもしれません。実は、握力測定(ことスメドレー式握力計において)では握り込んだ際、手首が曲がろうと(屈曲)するのに対し拮抗する前腕伸筋群の筋力が弱いと、手首が屈曲位となり、前腕屈筋群のスティッキングポイントを超えてしまうため極端に低い握力となる点に注意が必要です。
重要ポイント!
ここで大切となるのが、負傷してからの安静期間です。我慢強い方は、無理をして日常生活を送りますが、これは致命的な行為です。椎間板が飛び出した部分は傷口状態であり、ケガをした時よりも簡単な力で椎間板が飛び出します。すると、脊髄や神経根の圧迫部位が大きくなり、大変なこと(時には脊髄損傷)になります。
また、ケースによっては緊急手術や経過観察後の手術が必要な場合もありますので、担当医に判断をお願いするべきポイントかと思います。
ヘルニアの吸収と予後
続きまして受傷後6ヶ月目のMRI画像ですが、明らかに黄色サークル内の神経圧迫部分が小さくなっています。そもそも「飛び出した椎間板=(体にとって)異物」ですから、免疫細胞がある程度食べてくれますし(吸収)、急性期と違い炎症による浸潤物もないですから受傷直後の写真よりもすっきりして見えます。
ただし、回復スピードは年齢や、急性期を過ぎた時期から行うリハビリなどの要因によって異なります。
最後に受傷後12ヶ月目に撮影したMRI画像です。残念ながら6ヶ月前のMRI画像と比較して、ほとんど差がありません。この症例から推察すると、ヘルニアは時間の経過とともに小さくなり続けるのではなく、最初の数か月間吸収されたあとは明らかに吸収速度が鈍るようです。
しかしながら、受傷後6ヶ月目以降、自覚症状に全く変化がないわけではなく、半年前まで出ていた腕の外側や肩、そして肩甲骨まわりの痛みがほとんどなくなったというケースもあります。神経の高ぶりを抑制する「リリカ」というお薬の処方なしでも日常生活を送れるようになる程まで回復する事例もしばしばです。
よって、ヘルニア自体の大きさに変化がなくても、首に負担をかけない姿勢の習得や、傷ついた神経実質のわずかな修復(神経の修復速度はとても遅い)で症状は軽快するようです。
実際どのようなリハビリや寝方の指導、負担を軽減する動作の指導をしていくのかについては、またの機会にご紹介させていただければと思います。今回も最後までお読みいただきましてありがとうございました。